『JavaからRubyへ―マネージャのための実践移行ガイド』

注目の書籍、献本頂きました。訳者の角谷さん、ありがとうございます。出遅れた感じはありますが、感想を。。。

まず、私の立場を再表明しておくと、元々はプログラマ出身ですが、数年間Javaのマネージャを経験した後、今は、Rubyを採用したWebのソフトウェアサービス開発のマネージャをしています。実際にこの本に書かれているような実践移行を行ってきた立場での感想になりますね。

「マネージャのための」と銘打っているためか、Rubyのコードや技術的な説明を使わないで、Ruby導入の背中を押してくれる内容になっています。Javaを貶めるのでもなく、Rubyに熱中になってるだけの感じでもなく、わりと冷静なスタンスでリスクの分析をしている点は、マネージャとして安心して読めました。(かといって、全編にわたってRubyへの愛のようなものを感じるのは、訳者の力でしょうか)

キャズムの向こう側にいるマネージャにとっては、投資と回収が重要な判断基準になるんですね。一般的な世の中のマネージャの場合、自身でRubyを学習して、というよりも、チームや部下に学ばせることになります。つまり、いくらお金をかけるかどうかがポイントなんです。で、新しいテクノロジの場合、回収までの期間が短いことが選択の基準として重要です。5年前、3年前のRubyをとりまく状況では、Rubyを選ぶことは難しかったかもしれないですが、2006年から2007年の今のタイミングであれば、投資と回収のバランスはとれ始めていると感じています。そういった状況を把握しつつあるマネージャにとっては、この本は、Rubyを選択する良いきっかけになると思いました。

あと、忙しいマネージャにとっては、各章にまとめがついてるのは、単純にうれしいだろうと思う。


翻訳なので、日本市場や日本のSIerの特性に応じた話が入ってないのは仕方がないですね。私見ですが、日本ではキャズムを超えるかどうかの大きな要因として、ビジネス(商売)が発生するかどうか、だと思っています。市場ですね。CからJavaの時もそうだったはずです。日本のSIerの多くにおける開発の進め方が、設計までをしっかりおこない、製造部分だけを一括発注にしていますし、偽装請負の問題から、一括発注基準も厳しくなっているという商習慣の中では、プログラミング言語の違いが、ビジネスに影響を与えるまでに至らないという残念なことになってしまいそうです。

しかし、私がRubyに期待するのは、Rubyの勢いをもってして、そういった商習慣さえも変えていってほしいと思っています。そして、時代はそういった状況にさしかかっているように思えます。単純に新しい言語に変わっただけ、という何年も繰り返してきたことをブレイクスルーしてほしい、と。私自身は、その流れを後押しできないかと、JavaからRubyのマネージャに移行したつもりです。


マネージャにとって重要な仕事にリスクマネジメントがあります。リスクのバランスを見つつ、ヘッジできる仕組みを考えて、技術を採用していく訳ですが、マネージャに対して安心できる要素を提供するなり、リスクヘッジの手段を提供するところにこそ、ビジネス価値がありますよね。そのビジネス価値を提供していくような企業が出てくることで、Rubyをとりまく市場(ビジネス経済圏)が発生していくでしょう。

Javaの例で考えると、初期のBEAがその役割を担っていたと思います。TPモニタ製品として非常に実績があり、マネージャ層にとっても安心できるネームバリューをもっていた企業が、Javaアプリケーションサーバの販売を始めたことは、Javaにとって大きな契機になったんじゃなかったでしょうか。Rubyでもそうなれば、一気に企業で使われるようになると思います。そして、今、SunがかってのJavaにおけるBEAの立場となってRuby市場を牽引しようとしていますね。少し皮肉な感じもしますが、Javaで当初最も儲かったのがBEAだったとしたら、Sunのとる戦略は間違っていないのでしょう。


最後に、あとがきを読んで感じたことだが、訳者の角谷さんの言葉には力がある。邦訳ではなく、角谷信太郎著の日本版「JavaからRubyへ」を読んでみたいとも思いました。


余談ですが、この本で一番驚いたのは、角谷さん、学部は違うけど同じ大学の後輩だったってこと。

JavaからRubyへ ―マネージャのための実践移行ガイド

JavaからRubyへ ―マネージャのための実践移行ガイド